組織変革と人材採用・人材育成の最新事情

グローバル化や新技術によるイノベーションによって従来型の人材採用、配置・異動、人材育成・研修が上手く機能しなくなり、転換期に入っている。少子高齢化による若年労働力の不足も深刻化し始めている。組織風土の変革や次世代リーダー育成をはじめとする人事の諸課題解決のために、採用力の強化や多様な労働力の活用、従業員の生産性向上と定着を図る取り組みが本格化している。

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技術革新で新しいビジネスモデルの創出が急加速

 グローバルな販売体制の構築や現地ニーズに合わせた商品開発、国内市場の変化に合わせた新サービスの開発など、日本の企業が対応を急がなければならない課題は多い。一方、技術革新によってビジネスの変革にスピードが求められる時代になり、従来のビジネスリソースや人材だけでは解決が難しい場面が増えている。

 あらゆるモノがネットにつながるIoT、様々なサービスの利用データを分析して社会や経済の問題解決や事業の付加価値向上を支援するビッグデータ活用、そしてこれらの情報を処理・応用するAIなど、これまでのビジネスモデルにデジタル技術が結合した新しいビジネスモデルの創出を急加速させている。

 デジタルテクノロジーを結合させた新しいイノベーションの波が、自動車業界が開発を競う自動運転車、金融分野のフィンテック、医療分野のヘルステック、教育分野のエドテックなど様々な分野で起き、ニュービジネスが生み出されている。

 異分野からの参入と新たな競争で業界そのものが消滅してしまう可能性もはらむ。代表的なのがスマートフォンを利用した配車サービスのUber(ウーバー)。スマートフォンにアプリをダウンロードし、現在地を知らせると近くにいる登録ドライバーの車が配車されるシェアサービスだ。登録ドライバーは個人の自家用車を使い収入を得ることができる。業界の枠を越えて参入してきた競合に、タクシー業界は危機感を募らせる。

多くの経営者が業界の統合・融合を注視している

今後数年間に最も注視すべき潮流

今後数年間に最も注視すべき潮流

(出所)IBM「グローバル経営層スタディ」

変革と成長を実現するための次世代リーダー育成

 本誌が実施したヒューマンリソースマネジメントの専門家への調査では、2017年の人事の重要テーマ(複数回答)は、「次世代リーダーの育成」が70%で最も多かった。次いで、「組織風土の変革」(52%)、「ダイバーシティ」(44%)、「タレントマネジメント」(41%)、「採用力の向上」(41%)、「グローバル人材の確保」(37%)、「柔軟な働き方の推進」(37%)と続いた。

 グローバルな競争の激化や技術革新によって日本の企業は様々なフェーズで変革を迫られており、人事の重要テーマとして成長戦略を実現するための「次世代リーダーの育成」を最も多くの専門家が選んだのもうなずける。

 例えば、外資系製薬企業のMSDでは、リーダーの資質があると見込まれる人材を早期に特定、抜てきして集中的に投資するという採用・育成プランを導入している。

 5年前から始めたリーダー育成プログラムについて太田直樹同社取締役執行役員は「制度導入の背景には経営環境の変化がある。今までの成功体験に執着している者はリーダーとしてふさわしいとは言えない。異質なものを取り入れるメンタリティを持つ新しいタイプのリーダー育成が必要」と説明する。

 グローバルリーダーの育成に力を入れるのは日産自動車だ。リーダー発掘と育成プランの作成は経営会議メンバーが行い、毎月1回、世界の各地域で実績を上げている社員の中からリーダー候補として登録するかを決定する。

 カルロス・ゴーン同社CEOは「リーダーは生まれながらにして育つものではなく、作られていくものであり、誰かが助けて育てなければいけない。そのためには人材を特定することだ。そして成長させるためにはスタッフ部門に置くのではなく、本当に厳しい環境に送り込み、自分で解決を図ることができるようにする」と、リーダー人材の早期選抜と修羅場経験の必要性を説く。

 そして、リーダー候補の発掘や社員を適材適所に配置していくためのタレントマネジメントも欠かせなくなってきている。調査では「既存の育成法では新しい環境に適応できる経営人材が育たなくなってきている」という指摘も目立ち、グローバル化や新技術によるイノベーションによって従来型の採用、配置・異動、育成・研修が上手く機能しなくなっており、転換期に入っている状況だ。

変革と成長を担う「次世代リーダーの育成」が急務

2017年 企業人事の重要テーマ(複数回答)

2017年 企業人事の重要テーマ(複数回答)

(出所)日本人材ニュース「2017年 人事の重要テーマ調査」

イノベーションを生み出す人と組織づくり

 組織風土の変革も人事の重要テーマとなっている。コーポレートガバナンスの先進企業と見られていた東芝の不正会計事件でも第三者委員会が事件の背景として「上司の意向に逆らうことができないという企業風土が存在していた」と指摘しており、企業経営における健全な組織のあり方が改めて問われている。

 職場の問題に対症療法的に手を打つばかりでなく、そのような問題の発生を抑えるために職場を健全な状態に維持しておくことが何よりも重要で、人材開発だけでなく、組織開発へのより積極的な投資が求められている。

 また強い組織づくりのために社員の健康管理を経営的視点から考え戦略的に実践する「健康経営」を謳う企業も増えている。例えば伊藤忠商事は「伊藤忠健康憲章」を打ち出し、経営トップ主導による「長時間労働削減」と「メリハリのある働き方」を推進している。

 政府の「働き方改革実現会議」は時間外労働の上限を規制する方針を打ち出しているが、実際に厚生労働省の調査では1カ月の特別延長時間の内訳で最も多い時間帯は月間「70時間超80時間以下」でその比率は36.2%。さらに過労死基準といわれる「80時間超100時間以下」が16.0%、「100時間超」の会社が5.5%も存在する。しかもその割合は大企業ほど高い。

 人事にとって重要なのは「働き方改革」を“イノベーションを生み出す人と組織づくり”につなげていくことで、これまでの長時間労働や人事・評価制度を前提とした人と組織の関係を見直す必要が生じている。

少子高齢化で若年労働力の不足が深刻に

 2016年12月時点の有効求人倍率(季節調整値)は1.43倍となり、1991年以来の高水準となった。16年の平均有効求人倍率は1.36倍で、有効求人数が6.6%増加する一方で有効求職者数は5.8%減少した。

 本誌の人材紹介会社や採用支援会社への調査では、17年の日本の雇用情勢は「良くなる」という回答が63%、「横ばい」が33%、「悪くなる」が4%となり採用マーケットは過熱している。企業の採用計画の予測も同様に、「増加する」が過半数を占める。今年も高い水準の人材需要が続くことが予想され、人材採用はますます困難を極めることになりそうだ。

 今後の人材採用を考える上では、少子高齢化と労働力人口の減少を前提としなければならない。特に若年労働力の不足は深刻だ。大学などへの進学や就職の年齢でもある18歳人口はこれまで約120万人を維持してきたが、2021年から減少傾向に転じ、2030年頃には100万人を割り込むと推計されている。

 リクルートワークス研究所が算出した17年3月卒業予定の大卒求人倍率(修士含む)は1.74倍となり、前年の1.73倍とほぼ同水準。全国の民間企業の求人総数は前年の71.9万人から73.4万人と1.5万人増加。一方、学生の民間企業就職希望者数は、前年41.7万人からほぼ横ばいの42.2万人で、引き続き売り手市場となっている。

 労働政策研究・研修機構の調査によると、人材不足がすでに経営に「深刻な影響を及ぼしている」企業は14.1%、「一定の影響を及ぼしている」企業も52.1%に上り、人材が確保できなければ事業運営が立ち行かなくなる恐れがある。すでにエンジニアなどは奪い合いの状況だが、今後あらゆる業界・業種、職種において人材不足が深刻となってくるだろう。

企業の人材需要は高水準が続く

2017年 日本の雇用情勢・人材採用の増減(回答集計)

2017年 日本の雇用情勢・人材採用の増減(回答集計)

(出所)日本人材ニュース「2017年 企業の人材需要調査」

インターンシップの拡充でさらに早期化する新卒採用

 18年卒の採用活動は、3月広報開始、6月選考開始、10月正式内定という経団連のスケジュールが継続されることになった。17年卒の採用活動では、学生エントリーの減少に苦しんだ企業が続出したこともあって、広報開始前から学生と接触できるインターンシップを拡充する企業も多く、早期化がさらに進んでいる。

 本誌の調査でも18年卒の採用活動では17年卒以上の求人数増加が予想されている。採用難が続く中、学生に対して認知度の低いBtoB企業や中小・ベンチャー企業で採用に成功しているのは、自社の魅了の発信と経営者や働く社員への共感を前面に打ち出して、インターンシップに力を入れて取り組んだ企業だった。

 自社の魅力を伝えて共感を生むことで意欲の高い優秀な学生を採用できているし、そのような企業では内定辞退も少なかった。もはや賃金や処遇だけが魅力の採用活動では必要な人材は確保できない。

中途採用は人材コンサルタン トとの関係構築がポイント

 中途採用もまた人材争奪戦の様相だ。語学力を有する人材や、AI、IoT、フィンテックなどの新技術に関するスペシャリストのニーズは高まるばかりで、多くの企業で活発な採用が見込まれる。どの企業も求めるようなスキルや経験を持った人物には複数のオファーが集中するため内定辞退が続出しており計画通りに人材を確保できない企業が相次いでいる。

 このような環境の中で採用を成功させるためには競争力のある給与水準に加え、キャリアアップや働き方など金銭面以外のメリットを提示することが欠かせない。

 同時に採用を代行する人材会社との関係の見直しにも着手したい。リクルーティングのパートナーとして担当コンサルタントと密接な関係を築くために、求人情報だけでなく事業内容や組織風土まで理解を深めてもらう必要がある。さらに選考結果を詳細にフィードバックして、コンサルタントが推薦してくる候補者の面接通過率を上げていかなければならない。

従来の考え方に留まらない発想で採用力を強化

 採用が困難な状況が続くことへの対応策として、従来の考え方に留まらない採用の手法も取り入れたい。

 人材データベースを提供する会社も出てきておりダイレクト・ソーシング(ダイレクト・リクルーティング)をはじめとした多様な採用チャネルの活用などの取り組みが必要だ。ただし、ダイレクト・ソーシングはコストがかからずに人材を採用できると考えるのは間違っているだろう。確かに人材会社に支払うコストは削減できるが、採用担当者がリクルーティング・コンサルタントと同じ働きをしなければならないからだ。

 求める人材に応じた特徴的な人材紹介会社や転職求人サイトの利用、ダイレクト・ソーシング、社員紹介など様々な採用手法を活用し、さらに他社より早く内定を出すために採用プロセスも見直してスピードアップを図ることが欠かせない。

 外部労働市場を意識した賃金・処遇、働きやすい環境づくりなどの対策を講じて、人材育成という観点からより早いキャリアアップの機会を与えることも候補者には魅力的な条件となるだろう。採用力の強化は採用担当者だけが頑張るのではなく、全社で人材採用に取り組むような社内の協力関係を作り上げていくことが重要だ。

すでに6割以上の企業に人材不足の影響が及んでいる

人材(人手)不足が企業経営に及ぼしている影響

人材(人手)不足が企業経営に及ぼしている影響

(出所)労働政策研究・研修機構「人材(人手)不足の現状に関する調査」

多様な労働力の活用に向けた柔軟な働き方の推進

 ダイバーシティ、柔軟な働き方、女性管理職の登用・育成の推進なども人事が取り組むべき喫緊の課題だ。

 労働力人口が減少していくことを考えると、これまで以上に多様な人材、時間の制約がある人たちにも企業で能力を発揮してもらわなくてはならない。これまで働く場を見つけられなかった柔軟な働き方を求める人々が多様な雇用形態で働ける機会が増えつつあり、企業が積極的に採用するケースも目立っている。

 すでに深刻な人材不足に陥っている流通・サービス業や製造業の企業では、一足早くパート・アルバイトを労働時間が柔軟な契約社員や地域限定社員として社員化しはじめている。また生命保険会社などでは営業職を確保するために社員の定年を引き上げる動きも出てきている。

 多様な人材の活躍を推進する取り組みとして、短時間労働、在宅ワーク、モバイルワークなどの導入を検討する企業も多く、生産性の高い優秀な人材の定着施策となっている。

同一労働同一賃金で賃金・処遇制度の見直し

 労働法制の動向も注視しておきたい。働き方改革で正社員と非正社員の格差を是正するための「同一労働同一賃金」に向けた法令改正も今年は大きく動く可能性もある。

 政府は主に「同一企業内の正社員と非正社員の賃金の違いの是正」をターゲットにしており、ガイドラインの原案を昨年末に発表している。今年はガイドラインを正式に決定するとともに具体的な法改正の作業が行われる運びで、工程表では新法が19年施行の予定だ。

 政府関係者はガイドラインを踏まえて自社の正社員と非正社員の賃金格差について労使の議論が今年から始まることを期待している。法令改正による賃金格差の是正は中小企業にも求められる。

 折しも18年4月から5年超の有期契約社員の無期転換申し込み権が発生する。有期から無期に転換する労働者が大量に発生すると見込まれており、無期転換のための教育、賃金体系など人事制度の見直しは待ったなしだ。

 同一労働同一賃金を契機に正社員を含めた賃金体系や働き方自体の見直しが進む可能性もあり、これまでの新卒からの育成システムを前提とした能力主義から、成果を基準にした評価システムの構築、人材確保と生産性の向上につながる改革が必要となる。

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