組織変革と人材採用・人材育成の最新事情

少子化による労働力人口の減少で人材不足が慢性化し、テクノロジーの進化やAI、ロボティクスの導入が進む中で、企業は働き方改革による生産性向上を迫られている。人材マネジメントの諸課題解決のために、採用力の強化や多様な労働力の活用、従業員の生産性向上と定着を図る取り組みが本格化している。

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働き方改革でイノベーションを生み出す人と組織づくり

 人事担当者にとって働き方改革をどのように実行していくかが2018年の重要テーマだ。働き方改革では残業時間の上限規制などの法改正が進んでいくため、労働生産性の向上を急がなければならない。

 無期転換や同一労働同一賃金の実現も法的にクリアすればよいというわけではなく、少子化による労働力人口の減少で人材不足は慢性化しているため、中・長期的な人材の確保と定着を図り、さらに意欲を持って働ける環境を整備し、企業の成長を支える人材の戦力化につなげるような人材マネジメントへの転換が必要だ。

 すでに企業の生産性向上への取り組みは始まっている。例えばメガバンク3行は昨年、大規模なリストラ策を打ち出し、業務のスリム化を可能にするロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)の導入による事務作業の大幅な効率化を見込んでいる。今後、様々な企業がA(I 人工知能)やロボットなどのテクノロジーを活用することで、これまで人が時間と手間を掛けて行ってきた仕事をどれだけ減らせるかを本格的に検討しなければならないだろう。

 同時に、グローバルな販売体制の構築や現地ニーズに合わせた商品開発、国内市場の変化に合わせた新サービスの開発など、日本の企業が対応を急がなければならない課題は多い。技術革新によってビジネスの変革にスピードが求められる時代になり、従来のビジネスリソースや人材だけでは解決が難しい場面が増えている。

 あらゆるモノがネットにつながるIoT、様々なサービスの利用データを分析して社会や経済の問題解決や事業の付加価値向上を支援するビッグデータ活用、そしてこれらの情報を処理・応用するAIなど、これまでのビジネスモデルにデジタル技術が結合した新しいビジネスモデルの創出を急加速させている。

 これまでの長時間労働や人事・評価制度を前提とした人と組織の関係を見直して“イノベーションを生み出す人と組織づくり”が人事にとって最重要課題だ。

働き方改革の取り組みが本格化する

● 働き方改革実行計画の検討テーマと対応策

● 働き方改革実行計画の検討テーマと対応策

(出所)首相官邸「働き方改革実現会議 実行計画工程表」

“待ち”から“攻め”の採用への転換で人材を発掘

 本誌が実施した採用を支援する人材コンサルティング会社への調査では、2018年の日本の雇用情勢は良くなるという回答が70%、横ばいが27%、悪くなるが3%となった。企業の採用数の予測も増加するとの回答が過半数を占めた。今年もまた人材採用は困難を極めることになりそうだ。

 新卒採用でも昨年以上の求人増が見込まれており、売り手市場の状況が続いている。3月広報開始、6月選考開始、10月正式内定というスケジュールが継続されるが、今年はインターンシップや業界・業種説明会など、広報活動開始前の取り組みに注力する企業が増え、採用活動はより早期化している。

 採用に成功している企業では、独自のインターンシップに取り組んだり、学生との接点を増やすための工夫を行い、自社の魅力を伝えて共感を生むことで意欲の高い優秀な学生を採用でき、内定辞退も少ない。もはや賃金や処遇だけが魅力の採用活動では意欲の高い学生を確保できない。経営者、社員が様々な機会を通して会社の魅力を全社を挙げて伝えていくような採用活動が必要だ。

 中途採用も人材争奪戦が継続する見込みだ。中でも採用が激化しているのは新たなテクノロジー領域で、AI、ロボティクスなど新たなテクノロジーを実際のビジネスにつなげられるようなスキルを持つ人材へのニーズがますます高まっている。また、グローバル人材の需要も引き続きひっ迫しており、企業の中でいわば「人材の入れ替え」ともいえる要請が高まっている。

 採用の現場では、優れたスキルと経験を持つ人材には複数企業のオファーが集中し、従来の採用手法では人材を確保できない企業が続出している。そのため、社内では外部労働市場を意識した処遇の見直しも必須だ。

 また、より早いキャリアアップの機会を与えることも候補者には魅力的な条件となる。人材コンサルティング会社の活用では、人材紹介の成功報酬フィーの見直し、リテインド・サーチの活用、採用キャンペーンの実施などに着手したい。全社を挙げたリファラルやダイレクト・ソーシングの推進など打ち手は多い。

 母集団形成に苦しむ企業では採用チャネルの多様化に取り組む必要があるだろう。テクノロジーを活用した新たな人材サービスが多数生まれ、求職者の活動も多様化していることがその理由だ。従来の採用手法だけでは、自社の採用ターゲットと出会うことが難しくなっており、採用業務の効率化や採用のスピードアップも図らなければならない。

 HRテックを利用して、例えば、場所と時間という制約を越えて応募を受け付けるために、スマホに対応し、どの場所からでも面接ができるツールを活用する企業も出てきている。採用におけるテクノロジーやAIの活用事例も増えてくるだろう。

 採用を成功させるには、様々な手段を講じると同時に、採用担当者のスキルアップと全社で人材採用に取り組む社内の協力関係を作り上げていくことが欠かせなくなっている。これまでの“待ち”から“攻め”の採用への転換で必要な人材を積極的に発掘する企業が成果を上げている。

企業の人材需要は高水準が続く

●2018年 日本の雇用情勢・人材採用の増減(回答集計)

●2018年 日本の雇用情勢・人材採用の増減(回答集計)

(出所)日本人材ニュース「2017年 企業の人材需要調査」

多様な労働力の活用に向けた柔軟な働き方の推進

 ダイバーシティ、柔軟な働き方、女性管理職の登用・育成の推進なども喫緊の課題だ。労働力人口が減少していくことを考えると、これまで以上に多様な人材に企業で能力を発揮してもらわなくてはならない。

 これまで働く場を見つけられなかった柔軟な働き方を求める人々が、多様な雇用形態で働ける機会が増えつつあり、時間の制約がある人たちを企業が積極的に採用するケースが目
立っている。

 すでに深刻な人材不足に陥っている流通・サービス業や製造業では、一足早くパート・アルバイトを労働時間が柔軟な契約社員や地域限定社員として社員化しはじめている。また生命保険会社などでは営業職を確保するために社員の定年を引き上げる動きも出てきている。

 多様な人材の活躍を推進する取り組みとして、短時間労働、在宅ワーク、モバイルワークなどの導入を検討する企業も多く、生産性の高い優秀な人材の定着施策となっている。

 グローバルな競争の激化や技術革新による成長戦略を実現するため、次世代リーダーの育成を課題とする企業も多い。

 リーダーの資質があると見込まれる人材を早期に選択、抜てきして集中的に投資するという採用・育成プランや、リーダー候補の発掘や社員を適材適所に配置していくためのタレントマネジメントも欠かせなくなってきている。

組織風土の変革や「健康経営」が人事の重要テーマに

 組織風土の変革も人事の重要テーマだ。製造業による品質検査不正などの問題が相次いで発生しており、企業経営における健全な組織のあり方が改めて問われている。職場の問題に対症療法的に手を打つばかりでなく、そのような問題の発生を抑えるために職場を健全な状態に維持するために、人材開発だけでなく、組織開発への注力も求められている。

 強い組織づくりのために社員の健康管理を経営的視点から考え戦略的に実践する「健康経営」に取り組む企業も増えている。厚労省の調査では1カ月の残業時間の内訳で最も多い時間帯は月間「70時間超80時間以下」でその比率は36.2%。さらに過労死基準といわれる「80時間超100時間以下」が16.0%、「100時間超」の会社が5.5%も存在する。しかもその割合は大企業ほど高い。

 残業時間罰則付き上限規制を盛り込んだ労働基準法改正案が今国会で審議されているが、改正に先駆けて長時間労働の是正に取り組み成果を上げている先進企業も出てきている。

 長時間労働の是正は何よりも経営トップ主導の下で全社的な職場や個人単位の業務プロセスや業務量の見直しによる仕事の効率化を進めることが重要だと言われているが、一口に業務効率化といっても会社の業態や部門ごとにやり方は異なる。

 効率化重視の施策を拙速に進めるとコミュニケーション不足によるモチベーションの低下も発生する可能性がある。社員の創造性をかきたてるような生産性の高い働き方をつくり
だしていくことが大事だ。

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